にしもの筆記帳

永藤呉服店店主 筆記帳かわりにつかってます。

着物業界大魔王


【完全妄想小説】

西暦20××年 着物業界は悪者という声があがる。


ルール、価格、デザイン、しきたり、世間体、etc…ユーザーの不具合の全てが着物業界の仕組んだ罠。
そうだ、着物業界が着物の邪魔をしている。全て着物を愛する者にとって着物業界は悪。そんな声が世界に満ち満ちていた。小さな田舎の着物屋である私は思う、着物はもっと自由なものだ、楽しいものだ、美しいものだ、奥深く、伝統があるものだ。だからそのすばらしさを世界に広めようと。しかし、私とて着物業界の一部。



ならば!と私は思う、着物業界が悪ならば、着物業界の私が真の悪者となろうと!
私が業界の業(ごう)をすべて背負うと!!


そうだ私は着物業界大魔王!!!!


そして私は高らかに宣言する。
私が悪の親玉。私が諸悪の権化。私が着物売って飯食ってる悪人。
ユーザの不具合の全ては着物業界大魔王、つまり私が仕組んだ罠だと!!!


そして、
着物を愛する人たちが一斉に立ち上がる。
着物業界大魔王である私を倒す為に、着物を愛する人の希望を一つにまとめる人物が現れる。
着物を愛し、自由を愛し、伝統を愛し、着物を最も楽しむもの。それが着物勇者。


季節ルール。
伝統。
TPO。
着物の格。
生産者。
デザイン。
価格。
古着。
などなど



着物業界大魔王と着物勇者の戦いは永くに及んだ。

私と勇者の主張は、
まるでコインのように表裏一体だった。
すべての主張には反論できる材料があった。

長い歴史をつむぎ、多くの人が愛し、続いてきた着物には、
それだけ奥深さがあった、懐の広さがあった、誰も悲しまなくてもよかった。


私にはそれが救いだった。ああ着物が好きでよかったとさえ思った。



しかし私は分かってた、私は打倒されるべきなのだと。
なぜならば私は着物業界大魔王。
魔王は滅び勇者が勝たねばならぬのだ。
私が、私の骸が、この業界に、この世界には必要なのだと。



そして私は着物勇者に討伐される。


着物業界大魔王である私を打倒した着物勇者は全世界に和装を広げていく。
無限の可能性を持つ和装が各国の伝統的な衣類を取りこみ、さらに進化し全世界に広がっていく。

もう着物ユーザーはなにも恐れる事はない。
なにしろ和装、着物を楽しむことを邪魔する悪の権化、着物業界大魔王はすでに居ないのだ。

着物を愛し
自由を愛し
伝統を愛し
分け隔てなく着物を楽しむ事が出来る世界。


私の野望はまさしくこれだった。
その確かな蕾を見ながら私は朽ちていく。たった一反残った絣の反物とともに…。



*この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のものです。*



ここまで妄想した。